決心してヨーロッパに行くことにした。
舞台美術家の金森馨さんに「向こうで見る油絵は違いますよ」
と言っていただいたことがずっと心に残っていた。
油絵の具が自分に合わない気がして、
金森さんのスタッフ募集に応募したことがある。
「本当は何がやりたいんですか?」と訊かれて、
「絵をやりたいのだけれど、油絵の具になじめない気がして」と答えた。
*
実際にプラド美術館で数世紀に渡る「油絵」を見た時、
技法的なことを何も知らないことに驚いた。
「知っている」絵はたくさんある。
しかし『物質としての美しさ』は初めて知った。
日本でも主要な展覧会は観てきたつもりだったが、
人の肩越しやガラス越しがほとんどだった。
「何を描くか」が先行していて「いかに描くか」の大切さには至らなかった。
「透明で美しい油絵を描きたい」と強く思った。
*
見当違いに飛び込んできた若者に、
金森馨さんは親切にも道を指し示してくださった。
才気あふれる人を前にした高揚感の中で、
代々木八幡の木々が輝いて見えたのを覚えている。
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