2019年11月10日

光の体験


絵を描くことは手仕事なので
材料の取り扱いや仕事の段取りなど、冷静に臨む部分がある。

同時に、自然や大いなるものに
自分をゆだねていく感覚がある。

長い間絵を描き続けて、この「ゆだねる感覚」は
日常化してしまった。

何かを選ぶことは、
「すでに決まっているものを探す」感覚に近い。


この感覚は十代の頃、光の体験として始まった。

ある初夏にトンネルを抜けだしたように、
あたりがキラキラと輝いて見えた。


深い幸福感を伴っていたが不安もあった。

一つはこの体験が特異なものではないかという思い、
一つはこの幸福感を失いたくないという思いだった。

徐々にこの体験は特別なものではなく、
すべての人に起こりうることだと知った。

同じ幸福感は芸術を介して常に存在していることも知った。


そして一冊の本に出合った。


posted by gomi at 11:21|

2020年02月08日

初期油彩画

プラド美術館に行って、珠玉の作品群に出会った。

一生かけてもたどりつけない、
収斂の先

色が深く美しい一群の絵があった。
Van der Weyden, Jan Gossaert (Mabuse), Antonello da Messina

光に満ちた
初期油彩画の世界


何をどう捉えたらいいのか判らない中で、
グザヴィエ・ド・ラングレ『油彩画の技術』を読んだ。

何度も何度も読み返しては美術館に通った。
処方を試したかったが屋根裏のアパートではできることが限られた。


『油彩画の技術』結びの言葉。
『君の作品を通じて君自身の完成を手助けしたいと願う』

作品を作り、
自分自身に近づくことで、

個を超えて行きたいと思った。

posted by gomi at 20:48|

2020年02月29日

色と線


細密に見える初期油彩画も
近くに寄ってみたり、拡大写真を見ると、

ベラスケスや印象派に通じる
簡潔な描法によって描かれているのが判る。

色と線による縦横無尽な表現。


Madrid の画廊で、日本でも流行となる
細密画の台頭を目にしたが、

魅かれたのは、プラド19世紀館にあった
Ignacio Pinazo の詩情あふれる描画の世界だった。

求め続けることになる
古典と印象派をつなぐひとつの道でもあった。


色と線の重なりを想いながら
初期油彩画技法を追いかけることになる。


地中海の光を浴びるためにも、
Pinazo の故郷 Valencia に居を移した。


posted by gomi at 10:42|

2020年03月26日

フランドル初期油彩画



フランドル初期油彩画の傑作は、スペインに多く残されている。

Valencia の Patriarca 美術館にある
Dieric Bouts の十字架降下祭壇画の大きなサイズのものが、
グラナダの王室礼拝堂にある。

Valencia のものはコピーだという説もあるが、
見比べてみると Valencia のものの方がはるかに質が高い。

工房で大きな祭壇画を作る際の
親方による小下絵ではないかと思えるほどだ。


当時の制作は工房仕事なので、作品の帰属は難しい。
この絵も私が見た時は Van der Weyden に帰属されていた。

確かに色の深みは Dieric Bouts より Weyden に近いと思える。

Dieric Bouts は Van der Weyden の工房にいたと推測されている。
 Van der Weyden は Van Eyck の影響を受けている。


Van Eyck は Valencia に来たとも言われている。
その風景からイェルサレムを想い『神秘の子羊祭壇画』に描き込んだという。

Valencia はフランドル初期油彩画家の影響の下にあった。

そして Patriarca 美術館十字架降下図の深い色味に魅せられた。


posted by gomi at 06:05|

2020年04月24日

絵付けと釉薬



Valencia は焼き物の街でもあった。
イスラム影響下の陶工が金属光沢をもつ陶器などを作った。

スペイン陶磁研究家 Manuel González Martí のコレクションが
国立陶磁器博物館で見られる。

González Martí (1877-1972)によれば、
フランドル初期油彩画の中にValencia の焼き物が見出されるという。

『神秘の子羊祭壇画』中のイェルサレムについて指摘したのも彼だった。


ルオーの絵を見るために東京の出光美術館にはよく通った。
小山富士夫と三上次男が収集した陶片室にも入り浸った。

ペルシャ陶器の専門家 三上次男が説いた『陶磁の道』を
西の端から眺めることになった。


イギリスで中国陶磁にも触れて
陶磁器の絵付けと釉薬の大きな流れを俯瞰するうちに

初期油彩画の絵具層に、ある構造が見えてきた。
塗りの見本を作って美術館に持って行き、比べてみた。

近い効果が生まれたかもしれない。
まだ手掛かりに過ぎなかったが、とても嬉しかった。



posted by gomi at 06:32|