2020年03月14日

Valencia


Valencia は芸術の街だった。
美術館には15世紀バレンシアの初期油彩画がたくさんあった。

Patriarca 修道院美術館には
Dieric Bouts の「十字架降下」とともに Jan Gossaert の「この人を見よ」、

そして Ignacio Pinazo の「死せるキリスト」までもがあった。
様々な処方を試しては、美術館に通った。

稚拙に見えるバレンシア初期油彩画も勉強になった。
画面の作り方がよく分かったからだ。

El Greco も Caravaggio の絵もあった。
訪れる人もほとんどなく、専用の画学校みたいなものだった。


Alicante に住むドイツ人画家と知り合った。
無農薬の畑を作り、奥さんは糸を紡いで布を織っていた。

Hermann Hesse のことが話題になり、
「オメガ点」という出版社から出たスペイン語版のことも教えてくれた。

彼は、神秘体験をそのまま絵にしようとしていた。
それは私も試みたことがあったが、あまりにも難しかった。

山間に夕陽が沈もうとしていた。機にかかった布が染まる。

「ここは Hesse が最後に住んだところに似ている」
と彼は言って、微笑んだ。


posted by gomi at 21:20|

2020年07月29日

Mallorca


Mallorca に着くとすぐに、現代で最も成功した一人
と言われるスペイン人画家に出遇った。

色層を重ねていく技法ではなかったが、
直接描法と細密描写の使い分けが巧みだった。


島での制作で最初に取り掛かったのは、
コンポジションの見直しだった。

空間の大きな水平線を眺め、
構成に収斂の動きを持たすことにした。

絵が変わったことを指摘したバスク人の絵描きがいて、
彼が気づいたことに驚いた。


暫くして、アーモンド農場の納屋に落ち着いた。

広大な土地の一軒家で、
夕空の人工衛星がはっきりと見える。

望んだとおり、朝から晩まで絵を描いた。


posted by gomi at 11:23|

2020年08月06日

バグパイプ


島の各地で守護聖者の祭りがあった。

地元の銀行が各所に展示室を持っているので、
絵を掛けることにした。

レストラン「HANAITA」のオーナーが、
料理をふるまって応援してくださった。


「きれいなものを見せてくれたから」と言って、
伝統的な絣の布や刺繍を
家に呼んで見せてくれた婦人がいた。


伝統楽器としてバグパイプがあることも知った。

片手で笛を吹きながら、片手で叩く小太鼓 とともに
バグパイプはヨーロッパ各地にあり、

スペインやフランスだけではなく、
ベルギーやオランダにも残っている。


中世の写本装飾にも
メムリンクやブリューゲルの絵にも描かれている。

マヨルカとフランドルが
共通の民族楽器を持つことが不思議だった。


posted by gomi at 17:33|

2020年09月19日

新天地


美を求める心は誰の中にもあるけれど、
渇望している人は少ない。

稀有な魂と出会うたびに、
心が開かれた人のありがたさが身に染みた。


Mallorca で制作に没頭している間に
生活は完全に破綻した。

「生きていく厳しさは常にあるだろう」
という父の言葉に励まされて、

『フランドルで生きてみよう』
と思った。


ベルギーで工房を持ち「技法セミナー」を開き、
生活を作ろうと思った。


フランドルから、
ヨーロッパを見てみよう。

ゴシックからロマネスク。ゲルマン・ケルトへの
興味は尽きない。

『汎神的風土に
一神教がどう定着していったのか』

永年の関心事に
正面から向き合うことにした。


posted by gomi at 12:08|

2020年12月22日

シベールの日曜日


クリスマス近くなると思い出す映画
『シベールの日曜日』

画家コローが描いた森と泉がある
パリ郊外の街、Ville-d'Avray が舞台。

戦争で神経を病んだ青年と
孤独な少女 シベール Cybèle との出会い。


Cybèle は小アジアの大地母神で、
古代ギリシャ・古代ローマにも入ったという。

椅子に座った母神で
聖母マリアの上智の座の形によく似ている。

聖母マリア信仰は今もあり、
私の絵を広めようとしてくれたフランス人も信仰していた。


映画で青年はクリスマスの夜、異常者として
抹殺され、
シベールはピエタのように嘆き悲しむ。


一神教と汎神性の重なり

泉の聖母や黒マリアの痕跡
ノートルダム(我らが貴婦人・聖母マリア)

ブルゴーニュの葡萄畑の教会からも
マリアと大地母神を感じる。


ベルギーではブリュッセルに住んだ後、
広大なソワーニュの森が見渡せる丘に移った。

Ville-d'Avray によく似た風景の中で
絵を描き続けた。


posted by gomi at 10:52|