2021年01月31日

労働許可を得て


「フランドル文化を日本人に伝えてほしい」
という言葉と共に、画家として
ベルギーでの正式な労働許可が下りた。

王立美術館での技法説明会を繰り返し行い、
生活情報誌に『森とカテドラル』という文を書き始めた。

副題を  −der RHEIN と la SEINE の間で− として、
隔月で連載を書かせていただくことになった。


マヨルカ島との行き来の必要がなくなり、

最後に島で描いたスケッチを本画にしたときに、
画面に大きな変化が訪れた。

色の重なりが重層化し、
滲みが光を包み込むようになった。


1997年春、パリのプティ・パレで
フランク人についての大きな博覧会があった。

考古学的研究成果により、
初期フランク族の姿が明らかになってきていた。

ベルギー各地の博物館を訪れ、
フランク人の美術品に惚れ込んでいたところだった。

フランドル文化の祖型は、
フランク王国メロヴィング期にあると知った。


posted by gomi at 10:18|

2021年03月07日

緑の谷


ソワーニュの森の端に基幹鉄道の駅がある。
Groenendaal (緑の谷) 駅。レンガ造りの美しい駅舎だが、
私のいたころはすでに無人だった。

駅前が森となり、
入っていくと坂の下に泉が連なっている。

泉から小川が流れ出し、水車小屋だった建物の横を通り
ヤン ヴァン・リュースブルック広場の池に注ぎ込む。

広場には城館があり、今は役場になっている。

池の対岸の丘の上に町の教会があり、
そこで大切な人の葬儀に参列したことがある。


役場でこの町の歴史資料をもらい、
かつて「緑の谷」に重要な修道院があったことを知る。
開いたのが、ヤン ヴァン・リュースブルック Jan van Ruusbroec 。

この人が中世において大きな思想的役割を果たしたことを後に知った。

中世からの 絵画・音楽・神秘思想がこの緑の谷で一体化する。


Groenendaal (緑の谷) 駅から、ヤン ヴァン・リュースブルック広場まで、
林の中をかつて路面電車(トラム)が走っていたという。

その軌道の跡が小道になって、
泉のマリアに祈りを捧げる一角があった。


posted by gomi at 14:36|

2021年03月18日

この世のこと


画家のように魂の領域に踏み込むことが仕事であっても、
この世では画家も職業であり、個人事業主となる。

スペインでもベルギーでも画家としての労働許可を得たが、
それは社会に組み込まれる、あるいは組み込んでいただけることを意味する。

社会保障を受ける代わりに、税制にも従うことになる。

日本にいた時は全く無頓着だったが、
外国に出て初めてそうした課題に取り組むことになった。


滞在を続けるためには生活の証を示し、許可の更新を請わなくてはならない。
最初は戸惑ったが、
ベルギーで補佐してくれた会計士が実に優しい人で、

なにも分からない外国人に、懇切丁寧に教えてくださった。
何しろ収入と所得の違いすら理解していなかったのだから。

最終的にはどんな職業にもつける権利を得たし、
日本への帰国後、画家として開業届を出すことも自然にできた。


画家は社会的不適応者と受け取られがちだが、
それはこの世から少し離れたところで生きていくからで、

社会制度の中にも、それなりの居場所があることを知った。


posted by gomi at 18:45|

2021年04月09日

大いなる肯定


『100分de名著』災害を考える
池田晶子「14歳からの哲学」〜自己とのつながり〜 で、

若松英輔さんの解説が素晴らしかった。

「考えることは、思った通りの所ではないけれど、
より確かな場所へと連れて行ってくれる」と結ばれた。

絵を描くことも同じだと思っている。


『こころの時代』コヘレトの言葉
空(くう)から「それでも種をまく」
への転換も魂に響く。

否定を突き詰めた大いなる肯定。
そこに神秘的な宇宙体験があるように思う。

対談をされた若松英輔さんは
中世ドイツの神秘主義者エックハルトの講義もされている。


『緑の谷』の、中世フランドル神秘主義者リュースブルックと
エックハルトとは混淆されたことがあるようだ。

フランドルとドイツとの
地域特有の精神性が関与しているのだろうか。

フランドル絵画とドイツ絵画との技法上の近似を連想する。


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posted by gomi at 14:08|

2021年08月03日

トゥルネー


5世紀、ライン河畔にいたゲルマン人の統合が進み
緑の谷 近くから、スヘルデ川沿いのトゥルネーに拠点を移した。

この地域はベルガエ族の頃からゲルマンとのつながりが深かった。
フランク王国メロヴィング期が始まる。

トゥルネーの考古博物館に行くと、フランク王国の工芸品が見られる。
ガーネットや赤色ガラスが嵌め込まれたブローチ・留め金具。

メロヴィング期の美術品は、東方の香りがして力強い。
七宝や、ステンドグラス。初期油彩画などの透過する光に受け継がれる。

フランク王国は拡大し、都はパリに移る。


15世紀のトゥルネーに、Rogier van der Weyden が生まれる。
この地を訪れる時、Weyden に会いに行くような気がした。

フランスとの国境に近いスヘルデ川支流域は今も亜麻の産地で、
絵画用の亜麻仁油や亜麻布を生産している。

ロマネスクとゴチックが混在するトゥルネー大聖堂に
14世紀のミサ曲が残る。Jan van Ruusbroec が生きた頃の音楽だ。

楽曲形式は様々だが
Ensemble Organum の演奏には深い静けさが宿る。

フランドル初期油彩画の至宝 
Rogier van der Weyden の絵も、ダイナミックでありながら静かだ。


posted by gomi at 12:36|